こんにちは。

 

苫米地式コーチング認定コーチの大西です。

 

昨日、コーチ陣の前で90分にわたり講義をする機会を頂きました。今日は、その内容の一部をブログでご紹介したいと思います。img_9440

 

その内容は、なんと長嶋監督の指導法にまつわるコーチング的要素についてです。

 

長嶋監督というと「スッときたらグッと腰を入れてシュッといって、バチンッと打ち返すんだ!」みたいな長嶋節が象徴的ですよね。そんな長嶋監督がかつて打ち出した「4番1000日構想」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?

 

4番1000日構想とは、長嶋監督が巨人軍に入団した松井秀喜選手を1000日計画で日本を代表する4番打者に育て上げるための育成プログラムです。

 

遡ること24年前。対明徳義塾高校戦。「松井5打席連続敬遠」に揺れた夏の甲子園で表情一つ変えず一塁へと走る松井選手を見て、日本を背負う資質のある選手だと見抜いた長嶋監督は、当時1位指名の予定だった伊藤智仁(ヤクルト)を諦め、松井秀喜選手の獲得に乗り出します。

 

ドラフト選択会議で4球団の競合の末クジを引き当てた長嶋監督は、自らの手で育て上げると公言しここから二人三脚の育成トレーニングが始まりました。

 

長嶋監督の主な指導方法とは、さほど特筆するほどのものではなく、マンツーマンでの“素振り”でした。試合がある日は試合の後に、遠征先ではホテルの中で、休みの日も監督の自宅での素振りの日々が毎日のように続いたといいます。

 

そんな素振りの練習ですが、長嶋監督が松井選手に細かい技術のアドバイスをする事はほとんどなかったそうです。長嶋監督ほどの偉大な名選手なのだから、超一流のテクニックを伝授されたんだろうと思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。

 

では、どの様にして教えたのでしょうか?

 

実は、長嶋監督はただひたすらスイングの“音”を聞いていたといいます。

 

「ブンッ!」という豪快な低い音ではなく、「ビュッ!」っと鋭く風を切る高い音が出るまで練習が終わることはなかったそうです。

 

時には部屋を真っ暗にして、松井選手本人にも音だけに集中させる様にしました。しかも、その音の位置が前でもなく後ろでもなく、ちゃんとボールをミートする位置で聞こえるようになるまで行うのです。

 

驚かれるかもしれませんが、実はこのようなシンプルな練習だったのです。

 

ただ、やり方こそシンプルですが、この指導法にはちゃんとコーチング的要素が含まれています。

 

それはどう言うところかというと、右打ちの長嶋監督と左打ちの松井選手では身体の使い方が構造的に異なるため、もし細かいアドバイスをしていたらフォームを崩してしまいかねなかったというところにあります。

 

人は一見左右対称のように見えますが、1番重い臓器である肝臓が右寄りにあるので身体の中心軸(センター)はバランスをとる為にやや左にあります。(右手に重い荷物を持つとバランスをとる為に身体は少し左重心になりますよね。その原理です。)

 

ですから右打ちと左打ちでは身体の使い方が根本的に異なるのです。

 

そういう意味でも、長嶋監督が具体的なアドバイスをするのではなく“音”にフォーカスするという抽象度の高いアプローチは正しかったと言えます。

 

これは、私たちコーチがコーチングをする上での基本でもあります。

 

それから、明かりを消したり、余計なことは言わずにひたすら沈黙の中でスイングをさせていたそうですが、ここにも大きな意味があります。

 

「ビュッ」という音を正しい位置で出すためには常に自分の身体の動きに目を向けなければなりません。内観をさせ、客観的に自分を捉えていく事で、自分で答え(自分のバッティングフォーム)を導き出すように仕向けていたといえます。

 

如何でしょうか!?

 

まさにコーチングそのものですね。

 

実際に6年目にして松井選手も“耳”が出来上がったそうなのですが、その年からは複数のタイトルを取り始めています。

 

そして更に凄いのは、この様な抽象的アプローチが松井選手の評価関数を書き換えてしまっているというところです。

 

これはどういう事かというと、バッターにおける評価の基準は普通は打率で計りますよね。

 

しかし、“スイングの音の良し悪し”が松井選手の評価の指標になることによって、シーズン中に打率が悪かったとしても良い音のスイングが出来ていればスランプに陥ることがないし、逆に、打率が良くてもスイングの音が悪い場合は早めに修正に取り組めるようになります。

 

長嶋監督は、松井選手に周りの声に干渉されない自己の評価軸を授けていたのです。これは、本当に凄い事です。ドリームキラーを完全にロックアウトさせてしまったわけですから。

 

この様に長嶋監督は、コーチング的要素の詰まった指導方法で松井選手を巨人軍の4番打者へと育て上げました。それどころか、メジャーリーグのワールドシリーズMVPという世界屈指のスラッガーにまで成長させたのです。

 

実は、長嶋監督がこの様な指導方法を行ったのにはちゃんとした理由があります。それは、過去何人もの指導者が自分の理想を押し付けるあまり、本当に才能のある選手たちが夢半ばに去っていくのを見ていたところにあるのだそうです。

 

長嶋監督は野球界というものを俯瞰してみる目が合ったということでしょう。

 

この視点があったからこそ、コーチングがまだ日本にない時代にこれほどまでの選手を育て上げることが出来たのです。

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という事で、今日はここまでなのですが、次回はそんな長嶋監督に多大な影響を与えた人物、立教大・砂押邦信監督との「月明かりの1000本ノック」で受けた野球哲学とコーチング的要素について述べていきます。

 

楽しみにお待ち下さい!